花びらの香りに滲む頬の熱

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白いテーブルに散らした薔薇の香り

新郎新婦控室には、まだ本物の主役たちの姿はなかった。窓越しに差し込む午後の光が、白いクロスをかけたテーブルをやわらかく染めている。この式場と契約するフローリストとして働く彼女は、テーブルの端に膝をつき、指先で薔薇の花びらを一枚ずつ並べていた。今日の挙式のために任された装花の仕上げで、散らした花びらから蜜のように甘い香りが立ちのぼる。本来の花嫁がこの部屋に入るまで、まだ一時間近い余裕があった。

扉が控えめに開く音に、彼女は顔を上げる。カメラバッグを肩にかけた男が、戸口からこちらを覗き込んでいた。彼女と同じブライダル企業と契約するカメラマンで、今日は挙式前の光量を確かめに来たのだろう。この春、桜の咲く庭園での撮影で再び顔を合わせて以来、同じ現場に呼ばれるたびに、二人はどちらからともなく言葉を交わすようになっていた。

「また花びら並べてるのか。相変わらずだな」

彼はそう言いながら部屋に入り、テーブルの脇にしゃがみ込む。どこか懐かしさを覚えさせる、少し呆れたような、それでいて優しい声だった。彼女は手を止めず、視線だけを彼に向ける。

「散らばった花びらを見ると、つい形を整えたくなるの。昔からの癖」

「知ってる。お前、捨てられる花びらを見るたびに拾ってたもんな」

その一言に、彼女の指先がわずかに止まった。忘れていたつもりの記憶が、卓上の香りと一緒に呼び戻されていく。

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押し花のしおりと、忘れられない指の温度

彼女の実家は小さな花屋を営んでいた。毎年、薔薇の剪定期になると、店先には売り物にならない花びらが山のように積まれ、やがてゴミ袋の中へ消えていく。子供の頃の彼女はその光景がどうしても受け入れられず、店先にしゃがみ込んでは花びらを一枚ずつ拾い集めていた。

隣に住んでいた彼は、そんな彼女を見つけると決まって手伝いに来た。二人で拾った花びらを重ねて古い辞書に挟み、数日おきにページを覗いては色の変化を確かめる。押し花になった薔薇は彼の手でしおりに仕立てられ、進級のたびに彼女へ手渡された。色の良い一枚を選んでは彼女の耳もとに挿し、くすぐったがった彼女に払いのけられても、彼はいつも悪戯っぽく笑っていた。

「これで、来年の教科書も迷わないだろ」

そっけない口調とは裏腹に、彼が選ぶ花びらはいつも一番きれいな一枚だった。彼女はその手つきと指先の温度を、記憶のどこかにずっとしまい込んでいた。

彼の家族が仕事の都合で町を離れた日、見送りの駅のホームで、彼は最後に一枚のしおりを彼女の手に握らせた。それきり二人の暮らす場所は離れ、顔を合わせることもなくなっていった。

再会したのは、この春の撮影現場だった。ブーケの陰から声をかけられて振り返った彼女は、そこにいるのが誰なのか、すぐには分からなかった。名乗り合ってようやく気づいた瞬間、彼の顔に浮かんだのは、昔と変わらない、少し困ったような笑み。

初夏のガーデンウェディングでは、雨に濡れた芝生の上を二人並んで機材を運んだ。それから顔を合わせるたびに、話す中身はいつも仕事のことばかりでも、別れ際に彼が伸ばしかけた手を途中で引っ込める瞬間を、彼女は何度も見てきた。

先週の教会式のあとは、控室の片付けを終えてから迎えの車を待つ間だけ二人きりで話し込み、帰り道の車内で彼の指先が彼女の手の甲に触れたことがあった。彼はすぐに気づいたふうを装って窓の外へ視線を逃がしたが、彼女はその晩、指先に残った熱を持て余して眠れなかった。

「そうやって花びらを拾う癖、あの頃から一度も変わってないんだな」

彼の声に、彼女は我に返る。目の前の彼は彼女の指先を見つめたまま、テーブルに散った花びらへ手を伸ばしていた。

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花びらに沈む肌と重なる吐息

彼が拾った花びらを一枚、彼女の耳のうしろに挟み込む。指先が耳朶をかすめた瞬間、彼女の肩が小さく跳ねた。

「昔は嫌がって払いのけてたのに」

「今は……嫌じゃないから」

正直な言葉がこぼれた自分に驚きながらも、彼女は視線をそらさなかった。彼の瞳の奥に、何かを堪えるような光がゆらぐ。次の瞬間、彼の手が彼女の頬に添えられ、唇が重なった。

子供の頃には知らなかった深さで、彼の舌が彼女の口の中へ入り込んでくる。息継ぎの合間に漏れる吐息が、静かな控室に小さく響いた。彼の手がブラウスのボタンを一つ、また一つと外していく。冷房の効いた空気が素肌に触れ、彼女は思わず彼の腕を掴んだ。

「怖いか」

「怖くない。ただ、ずっと止まってた時間が、急に動き出した気がして」

彼はその答えに小さく笑うと、開いたブラウスを彼女の肩からするりと滑り落とし、そのまま背に腕を回してブラジャーのホックを外す。露わになった胸元に、彼の唇が重なっていく。

「んっ……」

尖った先端を舌先で転がされ、彼女は声を押し殺した。彼の手はスカートの中へと滑り込み、太ももの内側を這うように上っていく。下着の上から花芯を押されると、じわりとした熱が広がった。

「もう、こんなに」

囁くような声とともに、下着の脇から指が忍び込む。すでに潤んでいたそこへ、彼の指先が沈められた。

「あ……っん」

くちゅり、と粘った音が響き、彼女は彼の肩口に顔を埋める。彼は指を折り曲げ、彼女が最も反応する場所を探り当てていく。膝が崩れそうになるのを、彼のもう片方の腕が支えていた。

「感じやすいのは、昔から変わってないんだな」

「知らない……そんなの、確かめたことなかったくせに」

強がる声とは裏腹に、彼女の腰は小さく揺れていた。彼は指を引き抜くと、彼女の身体をそっとソファへ座らせる。その拍子に卓上の花びらが数枚舞い落ち、火照った肌に張りついた。彼はスカートをたくし上げ、下着に手をかけてするりと引き下ろす。彼女の脚の間に膝をつき、大きくひらかせた。

「見せて」

短い言葉のあと、彼の舌が敏感な場所に触れた。彼女は腰を浮かせ、ソファの縁を強く握りしめる。

「んぁ……そこ、だめ……っ」

だめと言いながらも、彼女の手は彼の頭を引き寄せていた。舌の動きに合わせて愛液が溢れ、彼はそれを丁寧にすくい取っていく。込み上げる波が大きくなるにつれ、彼女の声は制御を失っていった。

「もう、無理……お願い」

懇願する声に、彼は身を起こしてシャツを脱ぎ捨てる。彼女は震える指でベルトを外し、下着ごとくつろげて彼のものを解放した。彼はソファに腰を下ろすと、彼女の腰を引き寄せる。彼女は膝をつき、彼の上に跨るような体勢になった。

「入れるぞ」

低い声とともに、彼のものが入り口にあてがわれる。彼女は小さく頷き、自らゆっくりと腰を沈めていった。

「あ……あっ、大きい……」

満たされていく熱に、彼女の背が反り返る。奥まで届いた感覚に、頭の芯が甘く痺れていく。彼は彼女の額に落ちた髪をかき上げた。

「痛くないか」

「平気……もっと、近くにきて」

その言葉を合図に、彼の腰が下から緩やかに突き上げ始める。最初はためらいがちだった律動が、彼女の乱れた呼吸に応じて次第に速くなっていく。花びらの香りと汗の匂いが混ざり合い、控室の空気を濃くしていった。

「あっ、あっ……そこ、当たる……っ」

「ここか。ちゃんと、覚えとくから」

彼が最奥を突き上げるたび、彼女の視界が白く滲んでいく。込み上げる波に耐えきれず、彼女は彼の背に爪を立てた。

「もう、いく……っ」

「一緒に、いくぞ」

短く告げると、彼の律動が最後に大きく跳ねる。彼女は声にならない声をあげ、全身を大きく震わせた。彼も低く息を詰め、彼女の中で果てる。二人の荒い呼吸だけが、しばらく部屋を満たしていた。

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近づく足音と、初めての誘い

乱れた呼吸が整うまで、彼は彼女を膝に乗せたまま髪を撫で続けていた。窓の外では夏の日差しが少しずつ傾き、遠くから式場スタッフの慌ただしい足音が近づいてくる。本来の花嫁がこの部屋に入るまで、残された時間はもう長くない。

「そろそろ、身支度しないと」

彼が呟くと、彼女は名残惜しそうに身を起こし、乱れた服を整え始めた。彼はテーブルに散らばったままの花びらを一枚拾い上げ、彼女の耳のうしろへもう一度挟み込む。

「昔と同じだな」

「うん」

彼女は小さく頷き、傍らに置いていたバッグへ手を伸ばす。中を探る拍子に、古びたしおりが一枚滑り落ちた。押し花になった薔薇の色は褪せていたが、形だけは駅のホームで受け取った日のまま残っている。

「まだ持ってたのか」

拾い上げた彼の声が、わずかに掠れる。彼女は照れくさそうに、それを彼の手から取り返した。

「馬鹿にしないで。ずっと大事にしてた」

彼は少し驚いた顔をしたあと、彼女の手を包むように両手で握った。

「なあ。今度の休み、空けといてくれ」

思いがけない誘いに、彼女は目を丸くする。

「デート、ってこと?」

「そう言ってる」

素っ気ない返事に、彼女は小さく吹き出した。それから、いたずらっぽく彼を見上げる。

「幼なじみとデートするの、変じゃない?」

「幼なじみとはしない。お前と、する」

その一言に、彼女の頬がかっと熱くなる。うまく言葉が出てこないまま、彼女は小さく頷いた。

「うん」

短い返事に、彼はようやく笑った。控室のドアの向こうから、スタッフの声が近づいてくる。彼女はしおりをバッグにしまい、卓上の花びらを最後に整え直してから、扉へ向かう彼の背中を追いかけた。耳もとには、彼が挟んだ花びらの感触だけが、まだ確かに残っていた。

この物語は完全なフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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作者より月森 潤

月森 潤

幼い頃に二人で集めた薔薇の花びらという、ささやかな記憶を物語の芯に据えました。再会した二人がブライダルという、誰かの幸せを演出する仕事に就いているという対比を描くことで、彼ら自身の秘めた想いをより際立たせたいと考えました。 特にこだわったのは、視覚的な美しさと触覚の対比です。白いテーブルに散らした赤い花びらの色彩と、冷房の効いた部屋の中で高まっていく肌の熱量。その温度差が、抑えていた感情を加速させる装置になるように描写しました。また、子供時代の「しおり」という小道具が、大人になった二人の距離を縮める鍵となる構成に心血を注ぎました。 互いの指先の温度を確かめ合い、空白の時間を埋めていく二人のもどかしさと甘い充足感を感じていただけたなら幸いです。 読んでいただきありがとうございました。

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