
冷えたショーケースの向こう側
バニラとキャラメルの甘い匂いが漂う洋菓子店の厨房。閉店後の仕込みはいつも二人組で、パティシエの彼が理由をつけて彼女を引き止めていたことに、彼女はうすうす気づいていた。突然の豪雨で通用口に足止めされた夜、いつもの『風邪、ひくよ』が、今夜だけは違う響きを持って聞こえた…
続きを読む →19 件の記事

バニラとキャラメルの甘い匂いが漂う洋菓子店の厨房。閉店後の仕込みはいつも二人組で、パティシエの彼が理由をつけて彼女を引き止めていたことに、彼女はうすうす気づいていた。突然の豪雨で通用口に足止めされた夜、いつもの『風邪、ひくよ』が、今夜だけは違う響きを持って聞こえた…
続きを読む →
静寂が重厚なカーテンのように部屋を包んでいる。日中は稼働音と話し声で忙しないエコー室も、日付が変わる頃には医療機器のかすかな作動音だけが息をしているように響いていた。中央の施術台には、夕方の点検で消毒を終えたシーツが敷かれ、乾いた清潔さだけ…
続きを読む →

最終面接の結果を、規定の通知より先にこっそり教えてくれたその日、彼は「一人の人間として会いたい」と想いも一緒に伝えた。仕事の合否と交際の始まりが重なった一周年の記念日を、彼はうっかり忘れてしまう。閉店後の屋上で靴をバッグに隠して拗ねる彼女のもとへ謝りに来た彼が、素足へのキスから始まる触れ合いで許しを乞う、じれったくも甘い夜の物語。
続きを読む →
剣道部の顧問だった彼と部員だった彼女。上達できずに泣いた夜に借りたままの小手が、今も鞄の底にある。転職先の上司として再会し、引退試合の前夜に言いかけてやめた言葉の続きを聞くため、母校の用具倉庫を訪れた夜の物語。
続きを読む →
寝台特急の狭い個室で、彼女は無意識にあの使い込まれたボールペンを弄んでいた。三年前、ホテルチェーンの周年記念コンペで彼に敗れた夜、負け惜しみの記念にと彼が押しつけてきた一本だった。負けても勝っても案件を競い合った一年間、彼の異動で途切れた二年間、そして先月の再会と告白から一ヶ月。合同プロジェクトの噂を恐れて距離を保っていた元宿敵は、壁一枚を隔てて隣り合わせた個室の夜に、積み重ねてきた意地をようやく手放していく……
続きを読む →
蛍光灯を落とした社内資料室には、日中の喧騒が届かない静けさが降りている。天井まで届く鋼鉄の棚には黄ばんだファイルが行儀よく並び、古い紙と埃の匂いが夜の空気に溶けていた。窓の外には夜霧が街灯の光を滲ませ、細く開いたブラインドの隙間から月明かりが一筋、床に落ちている。…
続きを読む →
窓を叩く雨音が、狭いビジネスホテルの一室に閉じ込められた静寂をいっそう濃くしている。天井の間接照明が、白いシーツの皺ひとつひとつを浮かび上がらせていた。誰にも踏み込まれないこの一室だけが、二人の空気を静かに包み込んでいる。彼女はベッドの端に浅く腰掛け、膝の上で組んだ指先に力を込める…
続きを読む →
同じ部署で三年、赤字だらけの企画書も、役員会で酷評された夜の缶コーヒーも、深夜まで並んで練った修正案も、彼が手放せずにいた擦り切れた赤ペンも、すべて積み重ねてきた。友達と呼ぶには近すぎて、恋人と呼ぶには一線を引きすぎていた二人が、社員研修で訪れた山小屋で猛吹雪に閉じ込められる。「その呼び方、そろそろやめてほしい」。暖炉の火のそばでこぼれたひとことが、三年分の距離を溶かしていく一夜。
続きを読む →
四月に赴任してきた桐原悠介先生と、生徒会進路委員長の佐倉凛は、文化祭の準備を通じて三ヶ月間、ともに仕事をしてきた。缶コーヒーの一本、資料室で触れた指先、名前を呼ばれた廊下、積み重なった小さな記憶が、凛の胸の奥に静かに火を灯し続けていた。文化祭直前の夕暮れ、保健室へ向かった凛はついに「帰りたくない」と打ち明ける。「知ってた。俺も同じだから」。その一言が、三ヶ月分の距離を動かした夜の物語。
続きを読む →
三年間、厳格な上司の横顔に恋をしていたと気づかぬまま、菜月は日々を積み重ねてきた。地中海出張の夜、川本課長から届いた「来るか、302」のひと言が、すべてを変える。甘い香りが心のガードを解き、「入社式の日から」という告白が、三年分の沈黙を崩す。潮の香りに包まれた異国の夜、ようやく形になる、隠していた熱のはじまり。
続きを読む →
三年間、上司の蓮と部下の柚希として積み重ねてきた二人。閉店後の百貨店屋上という密かな空間で、ついに禁断の想いが解き放たれます。「次から頼む」の四文字から始まった三年間が、夜風の下でゆっくりと溶け出していく。冷徹な仮面の下に激しい情熱を秘めた蓮と、密かな憧れを抱き続けた柚希、やがて真珠色の蜜があふれる甘い夜へと変わっていきます。静寂に包まれた二人だけの秘密の場所で育まれる、背徳感あふれる大人の恋物語…
続きを読む →