屋上に揺れる裸足と交わした約束

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靴を脱いだ夜

閉店後の百貨店屋上には、まだ日中の熱がコンクリートの床に残っている。手すりの向こうに広がる街の灯りは、夕暮れの薄紫からゆっくりと群青へ変わっていく。彼女は日陰にある金属製のベンチに腰を下ろし、制服のスカートを膝の上で整えながら、パンプスを脱いで爪先を揉んでいた。朝から立ちっぱなしの研修が続き、脹脛が石のように張っている。

けれど、足の疲れよりも胸の奥にわだかまるものの方が重かった。

一年前、同じこのベンチで、彼は上着を脱ぎ、ネクタイの結び目を緩めながら「長く待たせて悪かった」と言った。最終面接の結果を、正式な通知より先に、こっそり教えに来てくれたのだ。合格の報告だけでは終わらなかった。「内定者としてじゃなく、一人の人間として、もう一度会いたい」。そう続けた彼に、彼女はその場で頷いた。仕事の合否と二人の始まりが重なった、あの日からちょうど一年が経つ。

彼はきっと覚えていない。朝の廊下ですれ違ったとき、彼は次の面接資料を片手に「悪い、後で」とだけ言って足早に去っていった。

「後で、か」

つぶやいて、彼女は靴下も脱いだ。冷たいベンチの影に素足を投げ出すと、火照った足の裏がひやりと冷えていく。誰もいない屋上で、意地を張るように靴を自分のバッグの奥へ押し込んだ。

足音が聞こえたのは、それから十分ほど経った頃だった。

「こんなところにいたのか」

振り返らなくても声でわかる。彼は上着を脱ぎ、ネクタイを緩めながら歩いてくる。あの日と同じその仕草に、彼女は横目でにらむのをやめられない。

「今日、何の日か覚えてる?」

「……悪い。面接が三件重なって、それどころじゃなかった」

正直な返事に、余計に腹が立つ。けれど彼はベンチの前に膝をつき、彼女の裸足を両手でそっと包み込んだ。

「靴、隠したのか」

「知らない」

「怒った顔も、あの日から変わらないな」

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夜風にほどける制服のボタン

彼は彼女の足首を持ち上げ、甲に唇を押し当てた。冷えた肌に温かい息がかかり、彼女はびくりと肩を揺らす。

「そんなことしても、許さないから」

「うん。だから許してもらえるまで続ける」

くるぶしから脛へ、舌先がゆっくりと道をたどっていく。じん、と熱が皮膚の下に灯る感触に、彼女はベンチの座面を強く握った。膝の裏に唇が触れた瞬間、抑えていた声が漏れる。

「んっ……そこ、弱いって知ってて」

「知ってるから、来た」

彼はいったん体を起こすと彼女の隣に腰を下ろし、そのまま彼女の腰を抱き上げて自分の膝の上に座らせた。向かい合った距離で、拗ねていた唇がようやく重なる。一年前の面接室では絶対に交わせなかった近さが、いまはもう当たり前のものになっている。それでも触れるたびに、心臓は面接の合否を待つときと同じくらい騒がしくなった。

キスの合間に、彼の手が制服のボタンを一つずつ外していく。夜風がスカートの裾を揺らし、素肌に触れるたびに彼女は小さく震えた。

「寒い?」

「風のせいじゃない」

正直に答えると、彼は目を細めて笑い、彼女の背に手を回して抱き寄せた。夜風に冷やされた背中と、掌の熱の差が肌を余計に敏感にさせる。彼の指先が背中でブラジャーの留め具を探り当てて外すと、そのまま胸のふくらみを包み込んだ。

「あ……」

声を我慢しようとして、彼女は彼の首筋に顔を埋める。彼は構わず胸の先端を指の腹で転がし、もう片方の手をスカートの中へ滑り込ませる。指が下着の中に入り、敏感な場所を確かめるように動くと、腰が勝手に浮き上がった。

「もう濡れてる」

「言わなくていい……」

「言いたいんだ、一年分」

からかうような声に、彼女は彼の肩を軽く叩く。けれど指先はそこに留まったまま離れず、抗議は最後まで続かない。

「んぁ……もう、意地悪」

「意地悪ついでに聞かせてくれ。今日の埋め合わせ、これでいい?」

答える代わりに、彼女は彼のベルトへ手をかけた。もう言葉はいらなかった。彼のものを取り出し、しっとりと濡れた入り口へ導く。ゆっくりと腰を沈めると、浅瀬から奥へと満たされていく感覚に背筋がしなった。

「あ、あぁ……っ」

「痛くない?」

「平気……だから、動いて」

促されるまま彼が腰を突き上げると、二人分の体重を受けたベンチが小さく軋んだ。抽送のたびに濡れた音が屋上の静けさに響き、彼女は彼の肩に爪を立てる。奥を突かれるたびに視界が滲み、声を殺すことすら難しくなっていく。

「ここ、久しぶりだから……すぐ、いっちゃいそう」

「いいよ、今日は付き合う」

律動が速まり、彼女の内側が彼のものをきつく締めつける。込み上げた熱が弾けた瞬間、彼女は喉をそらして声をあげ、爪先までぴんと伸ばした。彼も低く息を詰め、最奥で身体を震わせた。

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星明かりの下に残る温もり

呼吸が整うまで、二人はベンチにもたれ合ったまま動かなかった。やがて彼女は隣に座り直し、冷えないようにと彼の膝の上に素足を預ける。彼はその足の甲を指でなぞりながら、上着を彼女の肩にかけた。

「今朝は『後で』としか言えなかった」

「知ってる。だから、意地でも怒っていようと思ってた」

「ちゃんと言う。来年からは、この日をカレンダーに書いておく」

「今年みたいに膝をついて謝る方が、正直好きだけど」

「じゃあ来年も忘れるか」

「それは今夜だけじゃ許さないから」

さっきまでの怒った顔が嘘のように、彼女は笑った。釣られて彼も笑い、星が瞬き始めた空の下、彼女のバッグから靴を取り出すと、片方ずつ丁寧に履かせていく。

「来年の今日も、ここで待ってて。靴は、また隠していいから」

「隠さなくても、ちゃんと来るよ」

彼女は答え、彼の手を借りて立ち上がった。面接官と内定者として言葉を交わしたあの日の距離は、いまではもう軽口を叩き合える近さに変わっている。風が吹き抜け、彼女の乾いた髪をなびかせた。屋上に残るのは、まだ温かいベンチの感触と、来年もここに戻るという小さな約束だけだった。

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この物語は完全なフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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作者より月森 潤

月森 潤

百貨店の屋上という、日常の喧騒から切り離された静謐な空間を舞台に据えました。日中の熱が残るコンクリートの質感や、群青色に染まる空の色など、視覚と触覚の両面から情景を浮かび上がらせることに注力しました。 特にこだわったのは、パンプスを脱ぎ捨てた素足の描写です。冷たいベンチと熱い吐息の対比によって、二人の心の距離が縮まっていく様子を表現したかったのだと思います。また、一年前の面接日の記憶という伏線を回収し、単なる情事ではなく、積み重ねてきた時間があるからこそ生まれる信頼と甘さを描くことができました。 靴を履かせるという何気ない動作に、彼らの関係性の変化を込めた点も心地よい締めくくりになったと感じました。 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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