
家庭科室の熱気と滲む濡れ音
重ねた針の音と、言えなかった距離
午後四時を回ると、西日が差し込む被服室は蒸し風呂のような湿度を帯びていた。扉には「家庭科室」と書かれた古びた木札がまだ掛かっている。かつて教員養成課程で使われていた名残で、いまは手芸サークルの部室として代々受け継がれているだけだった。換気扇はゆっくりと回転し、年季の入った木材と染料、誰かがこぼした果汁の甘い匂いが空気を重くしている。机には色とりどりの端切れや糸巻きが散らばり、その隙間から覗く裁ちばさみが、夕方の光を鈍く反射していた。
彼女がこの部室に通うようになって、もうすぐ一年半になる。入学したばかりの春、右も左も分からないまま飛び込んだサークルで、最初に運針の基礎を教えてくれたのが彼だった。不器用な彼女の指に何度も針を刺させながら、彼は根気強く手本を見せ続けた。糸を通す角度、生地を張る力加減。そういう小さな積み重ねが、いつしか二人だけの時間になっていった。
去年の学園祭、共同制作の衣装を仕上げるために最後まで部室に残ったのは二人きりだった。疲れと達成感で泣き出しそうになった彼女の頬に、彼が触れた。それから半年、二人は誰にも言わずに付き合っている。月例会のあとの後片付け当番は、いつからか二人の指定席になっていた。
今日の月例会でも、部長からある報告があった。他の部員が帰り支度を始める中、彼女は机の隅に浅く腰掛けたまま、手元の端切れを畳むふりをして彼と目配せを交わす。最後の部員が扉を閉める音を聞いてから、彼が歩み寄り、その傍らに立った。彼の体温が伝わるほど近くに来るまで、彼女は指先で端切れの縁をなぞっていた。
「今日、部長から聞いた? 俺、来月で運営の引き継ぎが終わるって」
彼が静かに切り出した。低く、抑えた響きを帯びた声だった。今年で卒業する彼がこの部室に来られる回数は、もう数えるほどしかない。彼女は手を止め、俯いたまま頷いた。
「うん……聞いた」
積み重ねてきた放課後が、少しずつ終わりに近づいている。その焦りが、二人の間の空気をいつもより張り詰めさせていた。彼は彼女の人差し指を取り、そこに残る小さなたこに唇を押し当てた。一年半分の運針の跡が、そこに硬く残っている。
「まだここ、硬いね」
「痛くしたのは先輩なのに」
彼女が拗ねたように言うと、彼は苦笑して答えた。
「ごめん。でも、この硬さも好きだよ」
彼女は今日も講義帰りのままの格好だった。淡いブルーのブラウスにプリーツスカート、その上にカーディガンを羽織っている。彼は指を離すと、代わりに腕を彼女の背に回して抱き寄せた。
「あと一ヶ月しか、ここに来られないんだね」
彼女が呟いた。彼は答える代わりに額を寄せ、囁いた。
「だからこそ、今日は帰したくない」
低い声が耳元で響き、彼女の肩がびくりと跳ねる。彼の空いた手がカーディガンの前を開き、ブラウスの上から彼女の胸の膨らみを包み込んだ。生地越しに伝わる体温の高さに、彼女は小さく息を呑んだ。

裁ち鋏の光る机で、抑えてきた熱がほどける
彼の指がブラウスのボタンを一つずつ外していく感触に、彼女は身震いした。慣れた手つきではなく、少し急いた指先の動きに、彼女は彼の余裕のなさを感じ取った。前がはだけると、白いブラジャーに包まれた胸の輪郭が西日に浮かび上がる。
「先輩、いつもよりせっかちだ」
「悪いか。半年も我慢してきたんだ」
彼はブラジャーのホックを外し、露わになった乳房を両手で包み込んだ。柔らかな肉が指の隙間からこぼれ、頂の突起はすでに硬く尖っている。指先で軽く摘まむと、彼女は身をよじり、机に手を置いて体を支えた。
「んっ……」
彼はかがみ込み、片方の突起を口に含んだ。舌先で転がしながら、もう片方は指の腹でこね回す。彼女の鼓動が高鳴り、机の上に置かれた糸巻きがことりと転がった。
「くすぐったい……でも、やめないで」
彼女の声に応えるように、彼の右手がスカートの裾を捲り上げ、太腿の内側を撫で上げていく。冷たい空気と彼の手のひらの温度差に、彼女の肌がぴくりと跳ねた。指先がショーツの縁に触れると、すでに薄く染みができている。
「もう濡れてる」
「言わないで……恥ずかしい」
彼はショーツを脇にずらし、指を這わせた。割れ目に沿って上下に動かすと、彼女の腰が浅く浮く。彼はそのまま膝をつき、彼女の脚を左右に開かせて顔を寄せた。舌先が陰核を捉えると、彼女は机の縁を強く握りしめた。
「あッ……そこ……」
舌の腹で押しつぶすように舐め上げ、時折先端で弾くように刺激する。愛液が滲み出るたびに、彼はそれを啜るように吸い上げた。彼女の膝が震え、太腿が彼の頬を挟み込む。
「もう、腰に力が入らない……」
彼は立ち上がり、彼女を机に浅く腰掛けさせたまま、自分のベルトを外した。硬く反り返った屹立が姿を現すと、彼女は震える手を伸ばし、その根元を確かめるように握った。
「大きい……相変わらず」
「触っただけで、そんなに締まりそうな声出すなよ」
彼女は机から滑り落ちて膝をつき、先端に舌を這わせる。丁寧に舐め上げながら口に含み、頬をすぼめて吸い上げた。彼が短く息を詰め、彼女の頭に軽く手を添える。
「……上手くなったな」
「先輩に仕込まれたから」
彼女は喉の奥まで迎え入れ、舌を絡めながら顔を前後させた。唾液の糸が引き、部室の静けさの中に湿った音だけが響く。彼はしばらくその感触に身を委ねていたが、やがて彼女の肩を掴んで引き離した。
「このまま出したら、後半がなくなる」
彼は彼女を机の上に仰向けに横たえ、脚を大きく開かせた。先端を入り口にあてがい、じっと彼女の顔を見つめる。
「いくよ」
「うん……来て」
腰を進めると、狭い入り口が押し広げられていく感触に、彼女は背を反らせた。奥まで沈み込むと、二人の間から短い呻きが漏れる。
「あッ……いっぱい……」
彼が腰を引き、再び深く突き入れると、机がわずかに軋んだ。律動が徐々に速まり、粘膜同士がこすれ合う音が室内に満ちていく。彼女は彼の背に腕を回し、揺さぶられるままに声を上げた。
「先輩……もっと、奥…… あと一ヶ月しか一緒にいられないなら、今日は全部覚えていて」
彼女の言葉に応えるように、彼は腰の動きを強めた。その中がきつく締まり、彼の額に汗が滲む。身体が浮き上がり、下腹部が小さく痙攣したかと思うと、結合部から彼女の愛液が勢いよく弾け、机の端まで飛び散った。
「あぁっ……だめ、出ちゃう……!」
その締め付けに彼も限界を迎え、最後に深く腰を押し込んだまま、熱い迸りを彼女の中に注ぎ込んだ。彼はそのまま身を屈め、彼女の上に覆いかぶさる。荒い呼吸だけが二人の間に残った。

静まる部室と、来月への約束
換気扇の音だけが静かに回り続けている。彼は身を起こし、彼女の背に手を添えて上体を支え起こした。机の上に座り直した相手は、彼の肩に頬を預ける。すると彼はティッシュを取り、その太腿に伝った液を丁寧に拭った。
「先輩がいなくなったら、この部室、寂しくなるね」
彼女がぽつりと言うと、彼は彼女の乱れた髪を指で整えた。
「寂しくさせないよ」
「……どうやって?」
「後片付け当番、来月から誰かに代わってもらうよう部長に頼んだ。部員じゃなくなっても、月例会には顔を出す」
「……ずるい。先に言ってよ」
彼女は小さく笑い、彼の胸に額を押し当てた。伝わる体温だけが、一年半かけて重ねてきた放課後の続きを、静かに約束していた。
彼は机の上に転がっていた糸巻きを拾い上げ、彼女の指のたこにもう一度触れた。
「この硬さがある限り、俺のこと忘れないでいてくれ」
「なにそれ。忘れるわけないでしょ」
「じゃあ、また同じ場所で」
「うん。また同じ場所で」
彼女はそう言って、彼の手を握り返した。二人は乱れた衣服を整えると、床に散らばった端切れを手早く拾い集め、後片付け当番の名目だけは辛うじて守った。窓の外はすでに橙色に沈み、部室に残る二人の影を長く伸ばしている。棚には、来月の月例会の案内が静かに貼られたままだった。

この物語は完全なフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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作者より月森 潤

部活動という舞台で「積み重ねてきた時間」をどう可視化するかを考えながら書いた作品です。運針という地味な作業の中に二人だけの親密さを仕込みたくて、彼女の指に残る胼胝を、一年半という関係の長さを示す小さな証にしました。 先輩の卒業という「終わりの気配」を意図的に持ち込んだのは、積み重ねてきた時間に焦りと切なさを足したかったからです。月例会のあとの後片付け当番という、部活動ならではの現実的な口実の裏に、二人だけの儀式を隠しておく構造にもこだわりました。 制服ではなく、講義帰りのブラウスとカーディガンという大学生らしい装いに変えたのも今回のポイントです。西日の差す部室から橙色に沈む夕暮れへと移ろう光の中で、二人の関係がこれからも形を変えて続いていく余韻まで書き切れていたら嬉しいです。 読んでいただきありがとうございました。
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