
紫苑の館に取り残された初恋の疼き
紫苑の館に取り残された初恋の疼き
雨の匂いがした瞬間、隼人は七年前の放課後を思い出した。
私立紫苑学園の敷地の奥にある洋館「紫苑の館」には、旧図書室が今も残されている。当時の姿をそのまま活かした保存修復が終わり、今日はその記念式典が開かれる日だった。卒業生代表のスピーチを任された隼人は、開式前に会場の様子を見ておこうと、ひとり静かな書庫に足を踏み入れていた。廊下の向こうから、聞き覚えのある足音が近づいてくる。
「隼人くん……久しぶり」
戸口に立っていたのはエリカだった。図書委員長を務めていた高校時代よりも大人びた顔立ちで、仕立てのいいワンピースをまとった彼女の左手には、婚約者から贈られたという指輪が控えめに光っている。来週には結婚式を控えていると、招待状に添えられた一文で隼人はすでに知っていた。
「エリカも呼ばれてたのか」
「元委員長は皆、招待されるの。まさかスピーチ担当が隼人くんだとは思わなかったけど」
卒業後は都内の女子大学に進み、この春には卒業論文を提出したばかりだとエリカは言った。学生生活の最後の一年を、婚約者との結婚準備と並行して過ごしてきたらしい。
エリカは書架の間を懐かしそうに歩き、ある一角で足を止めた。三年間、雨の日にはいつも二人でこの席についていた、いちばん奥の閲覧席だった。窓の外では、あの日と同じ本降りの雨が降り始めている。
「この席、変わってないのね」
エリカがそう呟いた声には、隼人にしか分からない重みが滲んでいた。

隠していた想いが疼く放課後の記憶
「これ、覚えてる?」
エリカが書架の隅から一冊の文庫本を抜き出した。図書室の蔵書で、卒業式の朝に隼人が借り出し、そのまま彼女に渡した本だった。式の直前で時間がなく、エリカは中身も見ないまま返却口へ戻していたのだという。ページを捲った指が、最後のページで止まる。
「……ここに書き込みがあるなんて、今の今まで気づかなかった」
隼人の字で、小さくこう記されていた。『この続きは、いつか話そう』。七年間、誰にも気づかれないまま、その一文だけが紫苑の館の中で待ち続けていたことになる。
「言えなかったんだ、あの朝は。もう婚約が決まってるって、エリカ自身から聞いた後だったから」
「私、雨の予報を見るたびに、明日はここに来られるんだって、密かにわくわくしてたこと知ってた?」
エリカの告白に、隼人は言葉を失った。三年間、彼女もまた同じ理由でこの席に座り続けていたのだ。
窓枠の隙間から吹き込んだ雨風に、エリカの前髪がふわりと揺れた。隼人はその横顔を見つめたまま、彼女の手首にそっと指を這わせた。
「あ……」
エリカは目を伏せたまま、小さく息を吐いた。
「もう、我慢できない……」エリカが切なげに囁くと、
その言葉に、隼人はエリカの肩に手を置いた。ワンピースのボタンをいくつか外すと、白い鎖骨から胸の谷間までがあらわになる。彼の指先がその肌をなぞるように滑り、エリカは小さく息を詰めた。
「隼人くんの手、熱い……」
隼人は膝をつき、エリカのスカートの中に手を滑り込ませた。すでに湿り気を帯びた下着の上から指を這わせると、エリカの腰がびくりと跳ねる。もう一本の指が、彼女の太ももの内側を這い上り、下着の縁を器用にずらしていった。
「んっ……七年分、いっぺんに来る……」
エリカが呟いたその言葉に、隼人の指先も熱を帯びる。直接触れた花弁はすでに潤んでいた。指先で陰核を捉えながら、もう一方の指をゆっくりと浅く沈めていく。ふたつの刺激が重なるたび、エリカの声は次第に隠しきれなくなっていく。

七年越しの理性が溶ける刻
隼人が静かに指を引き抜くと、エリカは膝から力が抜けたように書架に手をついた。乱れた呼吸のまま、彼女は隼人の腕を引く。
「隼人くん、こっち来て」
エリカは隼人を閲覧席の古い椅子に座らせると、たくし上げた裾を直す間もなく、彼の膝の上に跨がった。書架の陰に身を潜めるようにして、雨音だけがふたりの呼吸をかき消してくれる。
「本当にいいのか。来週、結婚式なのに」
「今日だけは、七年前の続きにさせて」
エリカがそう言って隼人の首に腕を回したとき、隼人は彼女の下着をずらし、彼女の潤んだ入り口に、自身の陰茎を押し当てた。慣れない体勢に、エリカは背を反らせる。
「あ……っ、太い……」
「大丈夫か」
「うん……ゆっくりで、いいから……」
その言葉に、隼人はエリカの腰をしっかりと支えた。エリカが両手を彼の肩にかけ、なめらかに腰を落としていく。狭い入り口が押し広げられる感覚に、彼女は小さく喘いだ。
「ふ……あぁ、奥まで……届いてる……」
エリカは隼人の首筋に指を這わせながら、自ら腰を上下に揺らし始めた。委員長として皆の前ではきびきびと振る舞っていた彼女が、今は彼の上で乱れている。その落差に、彼の劣情はさらに深くなった。
「七年分、想像してたよりずっと熱い」
「言わないで……恥ずかしい……」
それでも、彼女の激しい動きは止まらない。深く沈み込むたび、隼人の切っ先が最奥を叩く。律動が噛み合ったとき、エリカの視界がじわりと霞んだ。
「だめ、もう……いく……ッ」
エリカが隼人の肩に爪を立てた瞬間、彼も限界を迎え、震える腰を強く突き上げた。エリカの中で果てると同時に、熱い飛沫が奥を満たしていく。精液と蜜が混ざり合い、椅子の座面へとじわりと伝い落ちていった。

雨上がりに残るもの
式典が始まるまでの、まだ誰もいない旧図書室。エリカは隼人の胸に頭を預けたまま、しばらく動かなかった。窓の外では雨脚が弱まり、薄い光が書架の隙間から柔らかく差し込み始めていた。
「あの文庫本、持って帰っていい?」
「もちろん。ずっと待たせてた本だから」
エリカは小さく笑い、指輪の光る手で本を胸に抱いた。
「あの続き、ちゃんと話せてよかった」
「うん。七年越しの答え合わせ、できたね」
来週には別の誰かの妻になる。それでも今日だけは、ずっと閉じ込めていた想いを、ようやく言葉にできた気がした。
「式典、行かなきゃ」
名残惜しそうに本を抱え直したエリカに、隼人は静かに言葉をかけた。
「幸せに」
エリカは一瞬だけ目を潤ませ、それから小さく微笑んだ。
「うん。……ありがとう、隼人くん」
雨上がりの匂いが漂う廊下を、エリカは一度も振り返らずに歩いていった。隼人はその背中が見えなくなるまで見送ったあと、閲覧席にそっと手を触れる。この館に取り残されていた七年分の想いは、今日ようやく居場所を見つけたのかもしれない。
この物語は完全なフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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作者より月森 潤

この物語で描きたかったのは、七年という歳月そのものの重さでした。高校時代の二人は、恋人でも何でもない「図書委員」という関係の中で、雨の日にはいつも二人で居残るという小さな習慣を積み重ねていました。その習慣の中にしか存在しなかった感情を、卒業と同時に婚約という外側の力で断ち切られてしまう。だからこそ、七年後に再会したとき、二人の間には「続き」ではなく「取り残されたもの」がある、という感覚を大事にしました。 隼人が書き込んだ一文に気づかないまま、エリカがその本を図書室へ返却し、七年間そのまま書架に眠っていた、という設定には、想いというものは伝わらなくても消えずに残り続けるという、ある種の執念を込めています。 婚約という後戻りのできない現実を前にしながらも、雨の日の図書室という同じ場所で、同じ音を聞きながら理性が溶けていく過程を丁寧に描いたつもりです。最後に残るのが答えではなく問いであることも含めて、二人が抱えてきた時間の厚みを感じていただけたら嬉しいです。 読んでいただきありがとうございました。
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