喪服の下に隠しきれない震え

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喪服の下の秘密

葬儀場裏手、遺族控室のドアには「関係者以外立入禁止」の札が下がっている。古いカーペットに染み付いた埃と、線香の匂い、頭上の蛍光灯は虫の羽音のように低く唸りながら明滅していた。窓の外では夕暮れの静寂が街を覆い、遠くの本堂から流れてくる読経の低い旋律だけが、この密室に外の時間を運んでくる。

彼女、瑞穂と男が知り合ったのは、夫の膵臓癌が末期だと告げられた直後のことだった。治療費のために持ち家を手放し、賃貸マンションへ移る算段をつけなければならず、不動産仲介として担当についたのが彼である。それから三ヶ月というもの、内見のたびに気丈に振る舞う瑞穂の、笑顔の下に滲む疲労を彼は見逃さなかった。「眠れない夜は、身体の力を抜く方法を見つけた方がいいですよ」。世間話のつもりで口にしたその一言をきっかけに、瑞穂は小さなバイブレーターを鞄に忍ばせるようになる。

だがそれだけでは埋まらない夜もあり、内見の合間に交わす言葉がいつしか熱を帯びていった。二ヶ月ほど前、二人はついに依頼人と担当者という一線を越える。人気のないモデルルームや、彼の車の中で、夫の見舞いへ向かう前後のわずかな時間を盗んで肌を重ねることは、罪悪感と表裏一体の、後ろめたい秘密になっていった。

夫は二日前、病院で息を引き取った。今日はその通夜。この二ヶ月の秘密を抱えたまま夫を見送らねばならないことに、瑞穂はまだ折り合いをつけられずにいた。喪服に身を包んだ彼女は、親族への挨拶を終えたばかりの顔で控室のソファに深く腰掛けていた。テーブルの上では、その指先の震えを映すように、紅茶の水面がかすかに揺れている。今日の昼、電話越しに掠れる声で「今夜だけ、来てくれる?」と囁いた言葉が、男の耳にまだ残っていた。

男が扉を閉めると同時に、重苦しい静寂が部屋を満たした。ソファに座ったままの瑞穂は、喪服の裾の下でそっと指を動かし、膝の隙間に隠した小型バイブレーターを操っていた。黒いパンストに包まれた膝が、かすかに震えている。静寂に紛れて自分の内に籠っていた瑞穂は、部屋に響く男の足音でようやく我に返った。慌ててスイッチを探るが、もつれる指先ではうまく捉えられず、動いたままのそれを傍らに置いた鞄の中へと滑り込ませた。

男が低く囁いた。「あ……まだ、止めてなかったの」

その声に、瑞穂の耳が赤く染まる。振動の余韻だけが指先に残る感覚を誤魔化すように、彼女は喪服の上から自分の太腿をきつく押さえる。この三ヶ月、幾度となく繰り返してきた仕草だ。だがそのたびに、彼女は男の視線を意識せずにはいられなかった。

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抑えてきた熱が、指先から溶けていく

「今日は、来てくれてありがとう」

震える声で瑞穂が呟く。男はソファに並んで座ると、瑞穂の腰にそっと手を回した。喪服の生地はしっとりとした重みを持って手のひらに吸いつき、指先を通じて伝わる体温は、いつもの内見のときよりずっと高い。

「もう我慢しなくていい。内見のたびに、無理に笑う顔の下を見てきたから、分かるんだ」

瑞穂は俯いたまま、何も答えなかった。ただ、逃げようとしないその体温だけが、いつもと変わらない返事だった。今日という日の重さを確かめるように、男の唇が、赤く染まったままの耳朶に触れる。囁くような吐息だけで、瑞穂の肩がびくりと跳ねた。まだ太腿を押さえたままだった瑞穂の手に、男の指がそっと重なる。まだ躊躇いの残る手首を捕らえて引き剥がすと、そのままなめらかにソファの背もたれへと押し倒す。手首を離し、喪服の襟に指をかけると、大きくはだけさせる。豊かな胸のふくらみがこぼれ出た。男の口は耳から鎖骨へ、鎖骨から素肌を辿り下りていく。瑞穂は堪えきれずに鈴を転がすような声を漏らす。

「んっ……そこ、だめ……」

「本当は、だめじゃないだろう」

男の舌が乳首をなぞるたび、瑞穂の腰が浮く。積み重ねてきた密会の記憶が、今夜はいつもより濃く二人を満たしていく。男の手がさらに下へと伸び、パンスト越しの太腿を割り開き、その隙間から指を秘所へと滑り込ませた。すでに溢れた蜜が指先に絡みつき、瑞穂は身体をのけぞらせた。

「こんなに濡れて……ずっと、我慢してたんだね」

「言わないで……恥ずかしい」

バイブレーターの刺激がまだ燻る身体に、男の指がさらなる刺激を送り込む。瑞穂の内側が指を締め付け、押し寄せる快感に爪先が丸まっていく。

「入れたい。もう、これ以上は待てない」

男の声は低く、抑えきれない欲求を滲ませていた。喪服の裾をたくし上げ、パンストを膝までずり下ろすと、露わになった太腿を大きく開かせる。瑞穂は視線を逸らそうとするが、男の熱い眼差しから逃れられない。そのまま身を寄せ、張り詰めた陰茎の先端が濡れそぼった入り口に触れた瞬間、彼女は小さく肩を震わせた。

「あ……」

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深く重なる、通夜の夜に

ゆっくりと押し込まれていく感覚。狭い入口が押し広げられ、硬い熱の塊が奥へと進んでいく。男は一息つくと、腰を沈め切るようにして深く挿入した。ぴたりと嵌まり込む感触に、瑞穂の指先まで甘い痙攣が走る。

「うんっ……深い……」

男が腰を引き、再び深く突き入れる。最初はゆるやかなリズムだったが、堰を切ったようにすぐ激しさを増していく。喪服の生地が波打ち、露わになった胸の先端が硬く尖っていく。瑞穂の喉から漏れる声は、廊下の向こうから聞こえる読経の低い旋律と重なり合った。

「今夜はもう、時間を気にしなくていいんだね……」瑞穂が涙声で漏らす。

「ああ。これからは、ずっと」男が囁き返す。

男の掌が瑞穂の尻を掴み、しっかりと固定する。その力強さに応えるように、彼女は自ら腰を押し出した。粘膜同士が擦れ合う濡れた音、肌がぶつかり合う音、乱れた息遣いが控室を満たしていく。バイブレーターの機械的な振動とは違う、生身の熱と重みが、彼女の身体の奥深くを埋め尽くした。

「もっと……奥まで来て」瑞穂がねだるように腰を揺らす。

「ずっと、こうしてほしかったんだろう」男が低く笑う。

男の腰の動きがさらに深く、速くなる。溢れる蜜が結合部から糸を引き、太腿を伝って喪服の裾を濡らしていく。瑞穂は男の肩にしがみつき、押し殺してきた想いを声にして解き放った。

「行くよ……」

男の腰が最後の一突きで止まる。瑞穂は大きく目を見開き、天井の蛍光灯の明滅を見つめた。熱い精液が奥深くへと注ぎ込まれる感覚に、彼女の背が弓なりに反る。放たれたものは温かく重みを持って沈み込み、やがて瑞穂の内側からじわりと溢れ出し、ずり落ちたパンストを伝って床に滴り落ちていった。

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灯りが消えた後、二人だけの約束

男が静かに腰を引くと、瑞穂の奥から白い糸を引くようにして精液が零れ落ち、カーペットへとゆっくり染み込んでいく。その静けさだけが、控室に残された唯一の気配だった。瑞穂の胸は激しく上下し、汗ばんだ喪服が肌に張り付いている。男はポケットからハンカチを取り出し、彼女の額に浮いた汗をそっと拭った。

「電話では、『今夜だけ』って言ってたのに」

男が苦笑交じりに囁くと、瑞穂は目元に滲んだ涙の跡を指先で拭いながら、小さく首を振った。

「今夜だけじゃ、足りないって気づいちゃった。……もう、隠さなくていいんだよね」

瑞穂は傍らの鞄からバイブレーターをそっと取り出し、この三ヶ月、二人だけの秘密だった小さな機械を、まだ熱の残る指先で握りしめる。

「あの部屋の契約、続きを手伝ってくれる?」

「もちろん。もう車の中や、モデルルームで隠れる必要もない。今度は、二人の部屋として選ぼう」

男の手を取り、瑞穂はゆっくりと立ち上がる。葬儀場の外では、夕暮れの残照が静かに夜の帳へと沈んでいく気配がしていた。身体の奥にはまだ気だるい熱が残っていたが、それはもう、悲しみと罪悪感だけのものではなかった。ここから、二人だけの後ろめたい季節が、誰に憚ることもない季節へと変わっていく。

この物語は完全なフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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月森 潤

葬儀場という静謐で重苦しい空間に、あえて濃密な情欲をぶつけたいと考えました。喪服の黒い生地がもたらす視覚的な締め付け感と、その下で密かに作動するバイブレーターという対比にこだわりました。三ヶ月という時間をかけて積み上げられた、後ろめたさと渇望が交差する瞬間に重点を置いたつもりです。 特に、外から聞こえる読経の声や明滅する蛍光灯といった環境音が、密室の背徳感をより際立たせる装置として機能したのではないかと思いました。絶望の淵にいる女性が、禁忌に触れることでしか得られない安らぎを求める姿を、肌の熱量とともに丁寧に描き出したかったと感じました。喪服という「死」を象徴する装束の中で、生身の快楽に溺れていく矛盾こそが、この物語の核になったと思います。 読んでいただきありがとうございました。

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