薫風に揺れる東屋の影

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薫風の東屋で、二十三年越しの答えを

初夏の午後、日本庭園の奥にある木造の東屋は、外の世界から隔絶された静寂に包まれていた。風通しの良い梁の隙間から差し込む柔らかな光が、磨かれた床板の木目をくっきりと浮かび上がらせる。傍らの庭石の上に置かれた水盤からは微かな水面の揺らぎ音が聞こえ、その涼やかさが空間全体をやわらかく包んでいた。

彼女、羽田あずさは、薄手のスカートの裾を整えながら椅子に腰掛け、膝の上で組み合わせた両手をぎゅっと握りしめていた。隣には遠坂拓実が座り、長い脚をゆったりと伸ばしながら、静かに彼女の方へ肩を傾けている。

二人が初めて出会ったのは、小学一年生の春だった。

転校初日、泣いていたあずさに声をかけてきたのが、拓実だった。「俺の隣の席な。一緒に帰ろ」。それだけを言って、大きな手があずさの荷物を持ってくれた。その日から、二人の時間が始まった。

中学では同じ陸上部に入り、並んで走った。高校では別々のクラスになったけれど、毎日昼休みに屋上で弁当を食べる習慣は変わらなかった。大学は別々になり、就職も別々になったけれど、こうして連絡を取り合い、会えば二十年前と変わらず笑い合えた。

それでも、あずさが自分の気持ちに気づいてしまったのは、大学二年の冬だった。

拓実が初めて彼女を連れてきた日。おめでとう、と笑った。その後、トイレで一人泣いた。気持ちに名前をつけたくはなかったけれど、もう、隠しきれなかった。それでも彼の隣に座り続けた。ただの幼なじみとして、ずっと。

三週間前まで、そのはずだった。

「俺はお前が好きだ。ずっと前から」

電話越しに、少し震えた声でそう告げてきた拓実を、あずさは信じていいのかわからなかった。だから今日、ここに来た。答えを出すために。

「待たせたか?」

拓実の声が、記憶の中から引き戻してくれた。低く落ち着いた音色は、いつも変わらない。けれど今日の瞳は違った、あずさがこれまで幾度となく見てきた「幼なじみを見る目」ではなかった。もっと深く、もっと真剣に、彼女だけを見ていた。

「……ううん、来たばかり」

嘘だった。三十分前からここで待っていた。でも、それは言えない。

拓実は小さく笑い、あずさの隣に腰を下ろした。彼から漂う清潔な石鹸の匂いと、庭から届く草の香りが混ざり合い、鼻をくすぐる。

「三週間、待ってた」

静かに彼が言う。

「……気づいてた」

「怖かったか?」

あずさは答えられなかった。怖い、というのとは違う。ずっとほしかったものが手の届くところにある時の、あの体が竦む感覚、それを、どう言葉にすればいい。

「拓実は……本気なの?」

「二十三年かけて確かめたことを、まだ疑うのか」

その言葉に、あずさの喉が詰まった。二十三年。幼稚園から数えれば、確かにそれだけの時間が経っていた。転校初日に荷物を持ってくれたこと。中学の陸上部で、あずさが転んで膝を擦り剥いた時、真剣な顔でしゃがみ込んで息を吹きかけてくれたこと。「痛みが飛んでいくまで、俺が吹いてやる」と言って、照れもせずに繰り返してくれたこと。

「……ずっと、お前を傷つけたくなかった」

まるで心を読んだように、拓実が続ける。

「友達でいる限りは、傷つけずに済む。俺がお前に何か言って、もし断られたら、ずっと隣にいられなくなると思って、怖かった」

あずさは、込み上げてくるものを必死に堪えた。

「……馬鹿じゃないの」

「うん」

「二十三年も待たせて」

「ごめん」

ごめん、と言いながら、拓実はあずさの肩をそっと引き寄せた。彼女の頭を自分の肩に乗せる。初夏の木陰を渡る風が、二人の間を静かに通り過ぎていった。

あずさは目を閉じた。肩に寄り添う温もりが、ずっとほしかったものだと、ようやく素直に認められる気がした。

「好き」

声に出したら、震えてしまった。

「……俺も」

拓実が、低い声で答えた。

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薫風に解ける、二十三年分の熱

どちらから動いたのか、あずさにはわからなかった。

気づいた時には、拓実の手があずさの顎に触れていて、その唇が、まっすぐ彼女のものへと降りてきた。

柔らかい。そして、温かい。

キスの経験がないわけではなかった。けれど、こんな風に誰かに唇を重ねられるのは、初めてだった。拓実が、この人が、あずさだけのために唇を降ろしてきているのだという事実が、全身に熱を広げていく。

「……あずさ」

呼ばれたのが、自分の名前だとわかった。それだけで、膝から力が抜けそうになった。

「もっとしたい」

拓実の声は低く、静かだった。いつもの気安い口調とは違う、あずさの奥まで届く声。

「……うん」

自分でも驚くほど素直に、頷いていた。

拓実が立ち上がり、彼女の前に膝をついた。目線がちょうど合う高さで、ゆっくりとあずさの足首を両手で包む。

「ここ……ずっと触れてみたかった」

囁く声に、あずさの心臓が跳ねる。なのに、怖くない。この人の手なら、二十三年間ずっとそばにあった、この人の手なら。

指先がふくらはぎを包み、ゆっくりと膝の内側へと移ってきた。涼しい木陰の風と、温かい掌の温度差に、あずさは背筋をぞくりと震わせた。

「あ……っ」

小刻みな呼吸が漏れる。拓実はその反応を逃さず、静かにあずさの膝を左右にひらくように促した。羞恥心が頬を染める。でも、身体はすでに彼の温度に溶かされつつあった。

「もっと触っていい?」

彼はそう囁き、ゆっくりと上体を前へ傾けた。唇が、あずさの膝の内側にそっと触れる。

あずさは思わず息を止めた。柔らかくて、湿った感触。じんと内側に染み込んでくる。そして、記憶が蘇った。中学二年の秋。陸上の練習で転んで膝を擦り剥いた時、拓実が真剣な顔でしゃがみ込んで「痛みが飛んでいくまで、俺が吹いてやる」と言って、照れもせずに息を吹きかけ続けてくれた。あの時と同じ、この人の手が、同じ場所に触れている。あの優しさが、大人の温もりへと変わって、今ここにある。

「……拓実」

名前を呼ぶだけで、また目が潤んだ。

「大丈夫」

彼はそっと顔を上げ、あずさの目を見た。「怖かったら、止める」

あずさは首を振った。「……止めないで」

拓実の目が、かすかに細くなった。その表情が、あまりに優しくて、あまりに真剣で、視線を逸らせなかった。

彼は再び目線を下げ、太腿の内側へと唇を這わせていく。指先がスカートの裾をそっとめくり上げ、太ももの奥へと届いていく。あずさは唇をかみしめながら、両手を椅子の縁に押し当てた。

拓実の指がショーツの布地に触れた時、あずさは小さく声を上げてしまった。

「んっ……」

熱がそこにある。自分でも気づかないうちに、身体はとっくに彼を求めていた。拓実はその濡れた感触を確かめるように、布地の上からゆっくりと指先で撫でる。じわりと広がる快感に、あずさの腰が浮きそうになる。

「ここ……こんなに」

囁かれるだけで恥ずかしくて、あずさは俯いた。

「恥ずかしいな」

「……からかわないで」

「からかってない」

拓実はそう言いながら、ショーツをゆっくりとずらした。指先が直接そこに触れた瞬間、あずさは全身を震わせた。

「あぁ……っ」

名前を呼ぼうとしたのに、言葉にならない。指が入り口を丁寧になぞり、柔らかくなった芯の部分をそっと刺激する。甘い熱がじわりと広がり、腰の奥から愛液が零れ出しそうになる。

「もっと……」

自分でも驚くほど素直な声が口をついた。

「もっと?」

「……うん、もっと、して」

拓実の指が、今度はゆっくりと入り口へと触れてきた。じわりと入り込み、慣れない感覚にあずさの身体がびくりと震えた。でも、痛くない。むしろ。どこか求めていたような、胸の奥が安堵するような感覚が広がっていく。

「肩の力、抜いていいから」

「……うん」

「俺しか、触ったことないよな」

その言葉に、あずさは小さく頷いた。当たり前だ。あずさにとって、拓実以外の誰かがこんな風に近づいてくることなんて、想像もできなかった。

拓実はゆっくりと指を動かしながら、彼女の身体が解けていくのを丁寧に確かめていく。やがて心地よさが波のように広がり、あずさは自然と腰を揺らすようになっていた。

奥深くで何かが蠢き始め、熱い愛液が溢れ出していく。

「入れていい?」

彼は顔を上げて、まっすぐあずさを見た。あずさは彼の目を見つめ返し、そして頷いた。

「……うん」

拓実がゆっくりと立ち上がり、あずさを椅子の縁へ腰かけ直させると、その脚の間に自分の腰を寄せた。衣服を押し下げ、ゆっくりと熱いものが入り口へと割り入ってくる。

「……っ」

息が詰まった。ぐ、と圧迫される感覚、でも、拓実はゆっくりと、あずさの身体が受け入れられるペースを見計らいながら、静かに深くまで入ってきた。

奥まで到達した瞬間、深い充足感が全身を静かに満たした。拓実のすべてを受け入れているのだという実感が、胸の奥から、じんわりと広がっていく。

「……苦しくないか」

「うん……大丈夫」

「震えてる」

「……嬉しいから」

拓実が、ぴたりと動きを止めた。そして静かに、額を彼女の額に合わせてきた。

「俺も」

低い声で、彼が言った。

それから彼は、ゆっくりと腰を動かし始めた。深く、そして丁寧に。ぬぷり、と蜜が溢れる音が耳に届いて、あずさは恥ずかしくて彼の胸に顔をうずめた。でも身体は正直で、その音に合わせて、さらに愛液が溢れていく。

「んあ……っ、あ……」

声を堪えようとしても、彼が深く突き入れるたびに、熱い吐息が漏れてしまう。東屋を渡る薫風が汗ばんだ肌を撫でて、その涼しさがかえって全身の熱さを際立たせる。

「ずっと……ずっと前から、あなたのことが……」

言葉が、自然に零れていた。胸の奥で長いあいだ抑えていたものが、拓実のぬくもりの中でほどけていく。

「俺も」

拓実が腰のリズムを少し速め、あずさの腰を両手で引き寄せる。奥まで届く感覚に、あずさは背中を反らせた。椅子の脚が軋む音と、蜜が溢れる湿った音と、二人の乱れた呼吸が混ざり合い、東屋の空間を埋めていく。

拓実の手が、あずさの胸元に触れた。薄い布越しに、乳首をそっと摘んで転がすように刺激される。二つの快感が重なり、あずさの理性は最後の一糸まで解けていった。

「あっ……! んんっ……」

奥深くで何かが弾けた。熱い波が全身を駆け抜けて、あずさは彼の肩にしがみついた。後頭部がぐらりと揺れ、拓実の腕が素早く背中を支えてくれた。

余韻が、震えとなって尾を引く。あずさは彼の胸に顔をうずめたまま、乱れた呼吸を預けた。

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薫風の余韻と、変わらぬ手のひら

静けさが戻った東屋の中、聞こえるのは二人の呼吸音と、遠くで響く蝉の声だけだった。

拓実はあずさを抱きしめたまま、ゆっくりと息を整えている。汗ばんだ背中を指先で撫でるその手の平が、心地よい余韻となって肌に残る。

あずさは目を閉じたまま、動けなかった。

胸に耳を当てていると、拓実の心臓の音が聞こえた。思ったより速い。いつも落ち着いているこの人も、今この瞬間は、あずさと同じところにいるのだとわかった。

「……この手」

気づいたら、声に出していた。

「ん?」

「転校の日も、こうやって荷物を持ってくれた。膝を擦り剥いた時も。ずっと同じ手なのに」

ふいに、静寂が挟まった。拓実の指が、あずさの背中の上でゆっくりと止まった。

「泣いてるのか」

「……泣いてない」

「嘘だ」

「……少しだけ」

彼はかすかに笑った。「三十分、外で待ってたくせに」

あずさは顔を上げた。「……なんで知ってるの」

「東屋に着く前に見えた。声かけたら逃げそうで」

しばらくの間、あずさは黙っていた。恥ずかしかった。でも、それよりも、ずっと見ていてくれたのだという事実の方が、胸の奥に温かく染み込んでくる。

「馬鹿みたい、私」

「馬鹿じゃない」

拓実の腕の力が、少し強くなった。「来てくれたから」

あずさはもう一度、彼の胸に顔をうずめた。呼吸が、少しずつ落ち着いていく。

窓から差し込む光の角度が、いつの間にか少し傾いていた。東屋の外では、薫風が青い木々を揺らしている。その影が、磨かれた床板の上をゆっくりと移動していく。

「ねえ、拓実」

「うん」

「これから、ちゃんと隣にいてくれる?」

少しの間があった。次の薫風が東屋を通り抜け、梁の隙間から光が揺れた。

「当たり前だろ」

低い声は、あの転校初日と同じ。ためらいも、飾りもない。

あずさは目を閉じた。胸の中で、ずっと張り詰めていた何かがようやく解けていく音がした。

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この物語は完全なフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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作者より月森 潤

月森 潤

初夏の陽光が降り注ぐ東屋という、静謐ながらもどこか密室感のある空間にこだわってみました。幼なじみという、気安さと緊張感が同居する絶妙な距離感。「友達」として積み重ねてきた二十三年が、ようやく「男と女」の関係へと変わる瞬間を書きたかったのです。 子供の頃に怪我をした時に彼がしてくれたことと、大人の快楽を重ね合わせるシーンには、二人が積み重ねてきた時間の重みを込めたつもりです。傍にいすぎたからこそ、踏み出せなかった。好きだからこそ、傷つけたくなかった、そんな二人の不器用な二十三年が、この東屋の静寂の中でようやく解けていく。 「ちゃんと隣にいてくれる?」「当たり前だろ」。転校初日と同じ声音で返してくれるこの人のそばで、あずさがようやく泣けた夜。そんな余韻が読者の皆さんにも伝わっていれば嬉しいです。 読んでいただきありがとうございました。

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